第9章 赤い牙を撃て

 ずっと一緒だったから、たった数日会わなかっただけで随分久しぶりに思える。
「れもさん、何してたの〜〜?」
「‥‥アイリこそ、何してたの?」
二人はそれぞれの空白の時間について語り合った。
 アイリはシュトラセラトに行っていたことを告げた。美しく、静かな港街。そこで会った人、起こった出来事、楽しかった記憶だけ掻い摘んで話した。
「‥‥‥でね。色々あって、ドレス作ってもらったら、すっごいキレイなドレスでさ〜〜。アリエルってば、喜んじゃって、子供みたいだったんだよ〜〜〜」
話だけ聞くと、それは楽しい小旅行のような物語。まだ話すことの出来ない、物語は省いて。
「へ〜〜そうなんだぁ〜。何日も帰ってこないから、どうしたのかと思ってた!」
笑いながら頭掻いて「ごめんごめん」謝るアイリ。―――――いつか話せる時がきたら、その時話そう――――――今は、それでいいと思う。
 ところでれもさんの方は? あの黒服の男たちに連れられて、その後どうしたろう。
「‥‥‥あのねアイリ‥‥‥‥聞いて。実は‥‥‥‥」
レモンは改まって話し始めた。ゆっくりと慎重に選んで、確かめるように語られる言葉は、自らを納得させるために紡がれているようなところがあった。

 

 

 レモンが古都に来たのは、旅行などではなかった。そもそも旅行にしては、滞在が長期過ぎるとは思っていた。
 実はレモンは、家を飛び出してきたのだった。
 あの邸での生活が嫌になってしまったのだ、とレモンは言う。一見、物もお金も恵まれていて、何不自由ない生活に見えるけど。あそこにあるモノは全部が全部、用意されたモノしかない、と、いつの日か気づいてしまったのだ。勉強もお稽古も、洋服も料理も‥‥‥‥。何から何まで与えられたものをそのまま身につけるだけ。きっとこのままじゃ、幸せも人生も、何もかも。本当に自分が欲しいと思うモノは、自分では何一つ手に入れられないんだ。そう思い迫られて、怖くなってしまって。そして家を飛び出してきたのだという。詰まるところ、レモンもアイリと同じ「家出娘」だったのである。
 そこからはアイリも知っての通り、ブルンネンシュティグにやって来て、偶然アイリと出会い、一緒に冒険したりして。毎日が楽しくて、それはブリッジヘッドの邸の中では、とても味わえないような経験だった。
 ところが当然、邸は大慌て。大切な御館様のご令嬢がいなくなってしまったわけだから。人を使ってあちこち探すも、この広いフランデル大陸極東部。女の子一人を見つけるのは容易なことでなかった。捜索は手掛かりを得られないまま、徒らに時を浪費した。
 進展があったのは、およそひと月ほど経った頃。それは、レモンが支払いに使ってるカード「顧客信用証明書」からだった。
 よほどのお金持ちでなければ所持することがない類ものだから、アイリには馴染みのないものだったし、レモンにとっても、支払いを自動で済ませてくれる魔法のお財布のような感覚だった。しかし商品を買ったりサービスを受けたりすれば、当然対価は支払わなければならないものであり、「顧客信用証」は現金のやり取りをその場でするのでなく、ひと月分の支払いをまとめて後日請求するというもの。代金の請求はカードに登録されている顧客情報に送られるのである。そこらへんのシステムが、少女二人にはよくわかってなかったのである。
 結局、宿泊代や飲食費などの請求が邸に届き、そこからレモンがブルンネンシュティグにいるらしいことが知れてしまったのである。
 各地に散らばっていた使用人たちを古都に集めて、虱潰しに探せば、見つけるのにそうは時間がかからなかった。見つけられて、捕まってしまったのが、アイリがシュトラセラトに発った朝のこと。
 ちなみに――――――レモンは知らないが、使用人たちは「確保」の際、非常に気を使わされることとなった。
 一つには、あくまでも大切な「お嬢様」。手荒な真似など、出来よう筈がなかった、ということ。
 だがそれよりも大きな理由として。相手が「レイモンドお嬢様」であった、ということである。ここにおいて使用人たちは神経を摩り減らして、細心の注意を払わなければならなかった。
 言葉は大いに慎まなければならないが、「レイモンドお嬢様」の気性、またその類稀なる魔法の才能。それらを考慮すると少数の使用人で「確保」に臨んでも、どんな目に遭うか想像できな―――――――容易に想像できることである。
 そうならないために。まず心から諦めてもらえるように。わざわざ、古都に捜索に来ている使用人たち全員を呼び集めて「確保」に乗り出したのである。
 実際あの時、直接姿を現した5人の使用人の外に、もう一重の包囲網が敷かれてあり、もし、レモンが応じてくれなかった場合は、使用人全員総力を以て、体を張って阻止せねばならないところだったのである(勿論、グラース家の名誉と、常識的観点からいって、そんな街中での騒動など避けられるに越したことはなかったが)。
 しかし、そこからがまた「レイモンドお嬢様」の本領発揮であった。
「どうかお邸にお帰りになってください」
促す使用人の懇願を、頑なに拒絶するレモン。全く、こうなると「レイモンドお嬢様」は取り付く島がない。
 使用人だけでは埒が明かず。遂に両親登場。多忙極める身の「御館様」は「大奥様」を連れ立って、ブルンネンシュティグにまでやって来た。それが二日前のこと。
 親子三人、水入らずで話し合った。こうなってしまったことや、こうなった今、思うこと。これからどうすればいいのか‥‥‥‥‥。
 これにはさすがのアイリも身につまされる思いを感じずにはいられない。話を聞いてるだけで、レモンが置かれた立場の、空気というか、臨場感みたいなものが伝わってきた。自分だって同じように家を飛び出してきた身。こんな話、これから自分に起こるであろうこと。全く、他人事なんかじゃない。
「‥‥‥で、どうするの‥‥‥‥?」
今後のことも気になった。二人の冒険はこれでおしまい?
「うん‥‥‥そのことなんだけど‥‥‥‥‥」
なんとレモンの話では、今の生活を続けることを両親に認めさせたという。そこには、まずレモン自身が強く望んだということと、レモンが7人兄弟の末娘で、兄弟の中で一人くらい、変わった生き方をする者がいてもいいのではないか、というところがあった。実際レモンの兄弟は、上から下までかなりの年が離れているが、皆、父の事業に何らかの形で携わっている。長兄などは今や会社の殆ど全てを取り仕切るようになったし、それ以外の上の方の兄姉も、組織の中核を成している。下の方の兄弟も、経営を学ぶために大学に通ったりしていて、一家は全てこの事業を中心に動いているのである。
 しかし7人兄弟全員に、それなりのポストがあるかというと、そうでもない。会社の規模や、一族以外の優秀な人材も考慮しなければならない。そんな中で一族の「女」に、どんな人生のレールが敷かれるのか、それほど想像に難くない。二番目の姉がそうであったように、レモンも、将来有望な若手社員を宛がわれ、その伴侶として事業の地盤固めに「組み込まれる」に違いなかった。勿論これもレモンの家出の要因の一つである。
 本来は家族を守るための事業だったはずなのに、それに拘束されて望みもしない人生を強いられるのは、レモン以前に、父にとって不本意なことに他ならなかった。「お前が望むなら、きっと、それがいいに違いない」慮られて、レモンは自由を認められたのだった。
 レモンの話を黙って聞いてはいるが、アイリにはいまいち、分からないことだらけ。
 でっかい邸に住んで、おいしいご馳走やキレーなお洋服。おまけに「イケメン婚約者」まで用意され(「将来有望な若手社員」はアイリの脳内でこう変換された)、なんだか有り得ないくらい幸せそうな生活に見える。こんなんで不満言ってたら、学校の仲間なんか、みんなマジ切れしそうなもんだ。
「うん‥‥‥でも違うの。なんて言うか‥‥‥‥う〜〜ん‥‥‥‥‥‥『偽物』? 幸せの『偽物』みたいなものなの」
分からない。アイリだけでなく、庶民ならみんなそう思うに違いなかった。
 けど、アイリも今、冒険なんてしてみて、新しいところへ行ったり何かを成し遂げたり‥‥‥。毎日が充実していると感じている。お邸の生活じゃ、そうゆうのが得られなかった‥‥‥‥そーゆーことかな?
「でね。アイリ‥‥‥‥ちょっと、来てほしいの」
宿をチェックアウトして、レモンに導かれるまま向かった先は‥‥‥‥‥‥‥同じ西部商業区、小洒落たアパートメント。何やら様子が慌しく思われたのは、先日の黒服たちが引っ切り無しに建物を出たり入ったりしているからだ。
「これからココに住むわ」
ふーん、れもさんココに住むのね‥‥‥‥‥って、
「えええええっ!」
五月蝿い驚嘆に、ちょっと眉を顰めるレモン。
「いつ決めたの? 親来たのおとといでしょ? なんで決めたの? 家賃どうしたの?(あ、家賃の心配はいらねーか)」 
などと矢継ぎ早に訊ねてくるが‥‥‥‥質問は一度にひとつにしてほしい。
「だから一昨日、親が来て。話し合って、帰らなくてもいいことになって『だったら宿暮らしなどではなく、ちゃんとした家に住みなさい』って。で昨日、家探して、ココに決めたの」
(ちょ‥‥‥‥‥やること早くね??)
普通はもうちょっと色々物件探してから住むとこ決めるが、たった一日で即決とは、さすが「金持ち」と言ったところか。
「アイリの部屋もあるよ」
 えええええええーっ?

 

 

 おおおおおおおお〜〜〜!
 アイリのリアクションが一々うるさくて敵わない。アイリは、レモンが自分の部屋まで考えていてくれたってことが喜ばしい限りだが、そうしなければ実は、自分には他に行くところがなかった‥‥‥‥なんて心配は毛頭ない。
 四階建てのアパートの3 階。部屋は三つ。キッチンとリビングの共有スペースと、アイリとレモン、それぞれのプライベートルーム。机や椅子、ベッド、クローゼット‥‥‥。家具類が調達されているのは、さっきから忙しなく動き回っている黒服たちの仕業である。
 ところで。―――――思ったよりも広くない――――――とアイリは思った。別に狭いってわけでも不便そうなわけでもないけど。「普通」って感じ。「お金持ち」のれもさんが決めたにしては、至って普通っぽかった。建物も古くはないが、築浅とまでは言えないようだ。
 「予算の都合」とレモンは言う。このアパートの月々の家賃は親には支払わせないとのこと。どうやら今回の件、全てレモンの「独立」を意味しているらしい。
 家出して、みんなに迷惑かけて、その上、それを認めてもらって。なのに、新居の家賃まで出して貰ってたら、邸にいるのと変わんない。ちゃんとそこは自分で捻出して。自分のことは自分でやらなければ、邸を離れる意味がない。勿論、色々大変なことはあるだろうけど。
 だからアイリと一緒に住める家を探したのは、前述の理由以外に、生活費などの問題もあったから。
 例えば家賃なら、仮に普通の一人用の部屋の家賃を「1」とするならば、二人分の部屋は「1.5」くらいする。でもそれを二人で負担するから「1.5÷2」、つまり「0.75」で済む。それにアイリと一緒なら、何か「問題」が起こっても、一緒に考えてやっていけそうだし。色々とレモンなりに合理的な方法を考えた結果だった(但し、アイリと一緒にいること自体が、多くの問題の発生原因となっているのだが‥‥‥)。
 ちなみに本当は家具類なども「自分で買う!」と、レモンは断っていた。生活してみて入用な品は、その都度そろえればいいと思ったのだ。でも、その点については両親が引き下がらずに「最初くらい、ちょっとは甘えなさい」と勝手に準備され、こうして一方的に搬入されてしまったのだった。レモンはそう言ったが、実際、二人分の家具類をそろえるとなるとかなりの金額だし、それを選んだり、アパートに運んだり、整理したり‥‥‥‥。女二人では色々大変なことだったろうから、その点はおとなしく言うとおりに従っておいてよさそうだった。
(こーゆーのなんて言うんだっけなあ)
アイリはさっきから別のことを考えていた。
(そうだ! 「るーむしぇあ」だ!)
一人暮らしの家賃や防犯などの問題から、最近ブルンネンシュティグでは「るーむしぇあ」というのが流行っている、というのを、なんかの雑誌に書いてあるとかって友達が話してるのを聞いたっぽいような記憶があるような気がした。
(あたし、おしゃれ最先端だぜ、かっくいいぜ)
こうゆう経験って、多分、まだ誰もやったことない。学校の仲間に自慢できる。そう考えてアイリは誇らしげになった。
 よく考えたら、冒険なんてしてみて、色々なことをやった気がする。普通に学校行ってたら、こんな経験できっこなかった。こんだけ色々やったら、さすがに胸張って友達に会いにいける気がする。だって冒険してみて、やっぱダメで「ダメだったから、また学校通わしてください〜〜〜」じゃ、カッコ悪すぎてみんなに合わす顔がない。
 その頃、外で動き回っている黒服たちに、刹那、張り詰めた空気が走った。
「あ。パパたちだ〜」
お嬢様育ちのレモンは、窓から身を乗り出したりせずに、手を振った。アイリも覗いて見ると、石畳の上を歩く貴族風の老夫婦が見える。黒服たちは皆、作業を止めてお辞儀している。老夫婦はレモンとアイリに気づいて会釈した。
(あれが、れもさんのご両親かあ〜)

 

 

 

 グラース夫妻とアパート内でご対面。
「こちらが、アイリさん‥‥だね」
ご主人はにこやかに自分の娘に確認して、
「いつも娘がお世話になってます」
わざわざラビットファーのソフト帽を取って挨拶した。ご夫人もほぼ同時に御辞儀する。
「は‥‥はじめまして‥‥」
アイリの声が緊張で上擦っている。そんな慇懃に挨拶されても、それに相応する礼儀なんか持ち合わせていないから。
「やめてよパパ。そんな、堅苦しい‥‥」
「ああ? そうかな」
「もう‥‥‥」
娘に呆れるように諌められて、老夫婦は朗らかに笑った。ご主人は低く、奥さんの方は高い声で。
 レイモンドの兄弟は上から下まで20才程度も年が離れている。末娘のレイモンドは、夫婦が大分お年を召されてから授かった子なので、三人並んだ姿は親子というより、祖父母と孫娘のように見える。アイリにはこの老夫婦の様子が、とても印象深く感じられた。
 「お金持ち」「貴族」「上流階級」‥‥‥。言葉にすれば日常に有り触れたものだ。勿論、古都にもそうゆう人たちはたくさんいる。
 でも違った。この夫婦は、アイリが今までに会った、そうゆう人たちとは全然違う。
 服装などは一般的な貴族のように、羽飾りだったり肩パットだったり、ひらひらだったりごわごわだったり、煌びやかで動きづらそうなものをお召しになっている。男性の服はそうでもないが、貴族とかお金持ちの女性は、なんであんなもの着て生活しているのだろう(レモンちゃんもだけど)。暑苦しそうだし。
 アイリには、この老夫婦にはそんな貴族めいた豪奢な衣裳が似合わないような気がしたが、それはひとえにアイリが貴族の衣裳自体に偏見のようなものを抱いているから他ならない。子供の頃から活発で暴れん坊だったアイリからしてみれば、服は動き易くて丈夫なものに越したことはないし、あんまり装飾めいたのは見る分にはともかく、自分が着るとなると不便だったり窮屈な思い出しかない。アイリにそう思わせてしまうくらい、この夫婦の人間的性質は衣裳とは相対するところにあった。
 一言で言うなら「底なしに温和」とでも言うのだろうか。心の底から滲み出てくる「ゆとり」とゆーか「余裕」とゆーか‥‥‥‥。無理して作られたものでなくて、自然なもの‥‥‥。
 普通、古都の人には「せかせか」した感じというか、差し迫った生活感というものがある。程度がひどいと「せこせこ」とも言える。中流階級は言わずもがな、貴族の人たちからもそういった印象は見て取れることが多い。そもそも古都の貴族どもといったら、金は持ってるんだろうけど、態度が高慢ちきで、いかにも庶民を見下してる風なところがある。バーゲンセールで行列をつくる人たちに向かって「はしたないわねぇ〜」などと言っているが、実は立場上そうゆう列に並ぶわけにはいかないから、羨ましさの裏返し、精一杯の皮肉をぶつけてるに過ぎなかったりする。
 言ってしまえば金銭感覚や発想は庶民と変わらない。金持ちだけど「庶民感覚」の持ち主なのだ。或いは、彼らは自身の中に流れる「庶民性」を嫌悪するから、庶民に対してそういった態度を取るのだし、そうすることによって自らの「庶民性」を滅却し、より高い次元の存在となり得ようとしているのかもしれない。
 そういったものがこの夫妻からは一切感じられないのだ。極度の金銭的ゆとりは、極度の精神的ゆとりを齎すのか。二人の笑顔はどこまでいっても朗らかで、それは泉の水が澄み切って水底まではっきりと見通せるのに似ていた。「お金持ち度」を測る尺度は、持っている財産の量で決まるのでなく、その心の豊かさで決まるものなのだと思わされた。
 真のお金持ちというのはまるで雲の上の住人だ、とアイリは思う。彼等からしてみれば、庶民など遙か底辺の存在でしかないのだろうが、そこへの対応に失礼さの成分が微塵も感じられないのである。
 例えば、人間は犬や猫を見下さない。「見下す」というのは、ある程度自身に匹敵する存在にしか向けられない行為なのである。それは広い意味で、自身とその対象が対等であることを示しているとも言える。だから人間は犬猫を見下したりはしない。そこには「自分とは違った生き物だ」という認識がある程度で、憐れみや蔑み、はたまた優越感などは抱きようがないのである。もしそのような感情を犬猫に対して抱き得る者がいるとするならば、それは彼等と同程度な者である。
 眼前で、雲上の住人たちのやり取りが繰り広げられる。
「やっぱり。ここじゃ、ちょっと狭いんじゃないか? もっと広いところにすれば、これから時々遊びに来るのに丁度いいのに」
「これくらいが普通なの! みんな、パパみたいにお金持ちじゃないんだから」
「だから言ったじゃないか。家賃ぐらい出す、って」
「アナタ。それじゃ折角、レイモンドが一人でがんばるって言ってるのに、意味がないでしょ。もう‥‥‥ねぇレイモンド」
「‥‥‥まったく、パパったら」
声のトーンといい、話す速さのゆったり感といい、内容といい‥‥‥‥‥なんとも、微笑ましい金持ち親子の会話である。庶民のアイリとしては背中のむず痒くなるような思いを禁じえない。でも、そこに嫌味のようなものは一切感じられないのであった。

 

 ところで。そんな三人の様子を見て。なんとなくだけど、アイリはわかってしまった気がする。
 れもさんの家出の理由。さっき聞いたけど。勿論そうゆう理由もあったのだろうけど。
 ホントはれもさん、もっとパパやママに甘えたかったんじゃないかな?
 きっとお金持ちだけあって、仕事で忙しくて、小っちゃい頃からあんま遊んでもらえなかったのかも。
 だから構ってほしくて、少しでも気にかけてほしくて‥‥‥‥そんな心配かける真似したんだと思う。
 でも、今日のれもさん、なんだかとっても楽しそう!
 だって普段のれもさんと言ったら。何回言っても「ブルジョワ買い」はやめないし、どう考えても動きづらいあのベルラインドレスは脱がないし、人のやることにあーだこーだ、いちいち小うるさい注文をつけてくる、小生意気な小娘だが、こんなれもさん見ていると‥‥‥‥なんとも可愛らしい素直な、フツーの女の子のようではないか。
(また遊びに来る、って言ってるし‥‥‥よかったね、れもさん!)
などと、何故か勝手にレモンを見守っている、保護者気取りのアイリ。

 

 

 

 その後。時間も時間だったし「せっかくだからランチでも‥‥」と誘われて、
「え? ‥‥‥でも、せっかくなんだし、親子水入らずで‥‥‥」
などと断ってみても、レモンパパの温和な圧力に抗し切れず、グラース親子と一緒に食事を取ることになる。
 「trèfle à quatre feuilles(トレフル ア キャトル フゥイユ)」は某有名グルメ雑誌にも紹介されている超一流レストラン。味も値段も三ッ星だ。そこでコースを御馳走になる。
 しっかし、こちとら中流階級出身、生っ粋の古都っ子。そんな高級レストランの門なんざ、生まれてこの方くぐったことはない。上質なエリプト織のテーブルクロスの刺繍と純白さ、規律正しい給仕たち。畏まった店の雰囲気に、アイリはもうたじたじになってしまった。

 

 ひえええええええええ
 ナイフとフォークがいっぱいある〜〜〜〜
 これ、どうやって食べるの???
 あ、このレモン水、飲むんじゃねえのか
 ってか量たんねえええええええ

 

 一人うるさい(無言なのに)アイリを尻目に、グラース親子はナイフとフォークを上手に繰って料理を口元へ運んでいる。ナプキンで拭いながら、レモンパパが料理の出来に舌鼓を打つ。
「実にいい店だ!!」
「ええ」
「おいしぃね〜〜〜」
「また来週もくるぞっ!」
「パパ。そんな暇、ないでしょ」
「全く、この人ったら‥‥」
戯れて笑う。そんな親子の笑顔が、窓硝子から差し込む午後の陽光の中に溢れて‥‥‥‥‥‥。一方、全く所在無さげな庶民の娘、アイリ・クレイン16才‥‥‥‥。

 

 

 

 食事を終えると、ご両親は使用人たちを引き連れて、一斉に引き揚げていった。
 二人並んで、見送りながら。
「ねね、れもんちゃん」
「なあに?」
「‥‥‥『PEATER PAN』行かね?」
「ぇええ?! さっき食べたじゃん!!」
「いやあ〜〜、全然食った気しなくて」
食べたことには食べたが、満腹感ってやつがなくて。あとパン一個くらい食っとかないと、午後持たなくなりそう。
「てか、れもさんは足りたの?」
「うん、おなかいっぱい」
澄まして答えた。
(ちっ。だからお前は成長しないんだ‥‥‥‥‥色んなところがなっ!)
なんでも、れもさんが言うには、あーゆーとこの料理は「食べ方」が違うんだとか。ちゃんと味わうために、ちょっとずつ、ゆっくり、ゆ〜〜〜〜っくり、よく咀嚼して食べるんだとか。
「食べるっていうか‥‥‥なんていうか‥‥‥‥『堪能する』って感じ??」
その言い草がアイリの交感神経を刺激する。
「はいはい。どうせ、ブルジョワジーの料理なんて、庶民にはわかりませんよ〜〜〜」
拗ねてしまった。
(やれやれ)
全くアイリの面倒見るのもラクじゃないわ〜〜〜、と思う年少の保護者レモン。

 

 

 

 さて。
 次の冒険、どうしようか。
 新居も手に入れて、生きるために稼がなければならない。
 冒険家としてそこそこの経験も積んだ。
 今の二人、力を合わせれば、結構なことが出来る気がする。
「やっぱ、リベンジっしょ!」
「り・べ・ん・じ?」

 

 

 

 旧レッドアイ研究所(通称「赤目」)地下1階。
 魔源灯の薄明かりに照らされた古い石造りの研究所。
 ここには「赤い牙」と呼ばれる、凡そ自然界の色彩と思われない赤い毛並みをしたハウンド種がおり、番犬さながら、研究所への侵入者を撃退しているという。その強靭な魔法力に掛かって命を落とす冒険家も少なくない。かつて、アイリとレモンもその魔力の前に屈し、危うく失命という危機を味わわされたことがある。
 今回二人は、この「赤い牙」と一戦交えようと、再びこの研究所までやってきた。
 二人にとってこの猛獣から勝利を勝ち取ることは、一度の敗北によって失わされた自信を恢復するとともに、「修行の成果」―――――今日まで積み重ねてきた冒険家としての経験が、正しく実を結んでいたということ―――――を証明する意味がある。言わば「超えなければならない壁」であった。

 

 

 研究所の地下を進むと、すぐに広間のような部屋に出た。入り口からここまで他に向かう道はなく、構造的に言って地下エントランスと思われる。ここから伸びる回廊は各ラボラトリーと更なる深部、研究所地下2 階への階段と通じている。エントランスには地上階を支える石柱が規則正しく並び、中央には巨大な四角錐状のオブジェが聳えている。それらは所々に崩れかかった箇所を持ち、この建造物が長く放置されていたことを示すように、毀れた石屑が辺りに散乱している。
(前にも見たことがあるな‥‥‥)
 レモンはそんな当たり前のことを身に沁みて感じながら、石柱を触ったりして歩いた。無意識の内に警戒態勢をとって、いつでも戦闘に臨めるような、気持ちの準備は調えられている。
 いつの頃からか分からないけど、アイリとレモン、二人並んで歩くときは、必ずアイリが左、レモンが右になっている。何か理由があってというわけではないが、自然とそうなった。ただ、この立ち位置を取ることによって、アイリが弓を構えた時、アイリの正面側にレモンがいることになるので、二人の意思の疎通がはかり易いという点がある。
 そして、こうゆう時は大抵アイリの方が少しだけ前を歩く。「何か」あった時、矢面に立つのがアイリ。アイリは本能的に、物事と正面から向かい合って対処する。一方、レモンは理性的な対応を取る。アイリの対処を冷静に観察しつつ、後方から自らが取るべき行動を考えるのだ。
 レモンは考える。
 こないだはここに来て、すぐに赤い牙に遭遇してしまった。けど、今回もいるだろうか‥‥‥。あちこち探し回らなければならないかもしれないし、或いは、そうしてる内に、別の強敵に遭遇してしまうかもしれない‥‥‥‥‥。起こり得る危険については、せめて、なるべく想定しておきたかった。
「今日もすぐ『出る』かね〜〜」
「‥‥‥ん‥‥‥‥」
アイリの口数が少ない。余り人の話が聞けてないのだとわかる。アイリは単細胞だから、一つのことに集中すると他に全く気が回らなくなる。が、戦闘に関してはそれでいい。それだけ、気が引き締まっているということだ。
 レモンの心配は杞憂に終わった。それが喜ばしいことかどうかは別にして。
 四角錐状のオブジェの脇、"それ"は静かに現れた。石の床を肉球だけでヒタヒタと歩く姿は猫のようだったが、よく意識を研ぎ澄ませれば、微かに擦れ合う爪の音がカチャカチャと響いた。
 アイリは弓を構えた―――――と思った瞬間には、放っていた。
「ビュン!」
赤い牙が身を翻す。そのしなやかさ――――。
「?!」
 躱した?! 目標を失った矢が石床を滑っていく。
 いくらイヌの動体視力が優れているからといって、出来るものなのか‥‥‥‥飛んでくる矢を見て躱すなんてこと‥‥‥‥‥。
 いや。
 見てから躱したんじゃない。
 矢を放った瞬間には動き出していた。 
 知能で躱したのだ。矢が飛んでくることを、軌道を予測していた。
 そして躱したその身のこなしで、襲い掛かってきた。
 アイリの直前で跳躍! 飛び掛かる!
「ガウッ!」
 突き出した前足。爪と牙の攻撃!
 弓を翳して反りで去なす。丁度、頚部に弓を宛がわれて、爪と牙は届かず、アイリは左にやや体勢を崩し、イヌは右に着地した。その位置がアイリとレモンに挟まれたような位置だったので、着地後足取りを弛めたと思ったが、すぐさま走り出し、遠退いて距離を取った。(すごい力だ‥‥)
 駆け出したイヌは石柱の向こう側。疾走する影が見え隠れする。2、3、石柱を駆け抜けて折り返し、再び真っ直ぐ襲い掛かってきた!
(まずい!)
 今度は立ち位置が、イヌの正面にいるのがレモンだった。
 アイリは持ち前の運動神経と弓があったから何とか躱すことができたが、レモンはそうはいかない。アイリが対応を考え出す間もなく、赤い牙はレモンに襲い掛かった!
(ああっ!)
アイリが思った瞬間。
 閃光!
 蒼白い光が石造りの部屋を明るく照らし出す!
 起死回生、レモンの電撃魔法が炸裂した。
「キャン!!」
赤い牙は普通の犬さながら情けない悲鳴を上げて、元来たオブジェの方へと戻っていった。高い知能と反射神経を持ってしても、至近距離からの魔法攻撃は回避できなかった。
「グルルルルルルルル〜」
 怒りと狼狽とが伝わってくるようだった。
(効いている‥‥)
 優勢だ。
 畳み掛けに入った。アイリは弓を、レモンは電撃魔法を放って追い討ちをかけた。
 しかし‥‥‥。
 距離を取って冷静さでも取り戻したのか、アイリの弓は再び躱されてしまう。レモンの魔法も離れていては同様だった。
(また襲い掛かってくるだろうか‥‥)
 当たらない矢を放ちながら、アイリは考える。
 ああやって間髪入れず、何度も飛び掛かってこられたら、正直きつい。敵は想像通り素早く、想像以上に力強い。いつ深手を負わされるか、わかったもんじゃない。それとも‥‥‥‥‥。レモさんがやったように、迫ってくるところに、一撃お見舞いしてやろうか‥‥‥? しかし‥‥‥‥当たるかどうかわからない上に、外れた時の危険が大きすぎる‥‥‥‥‥。思考は逡巡した。
 その時――――――まるで赤い牙は、不敵に笑ったようだった。
 尾を逆立てて、身を屈めた。
 そして唸った。
「ガルルルルルルル〜」
(「あれ」がくる‥‥!)
強力な魔法力場が赤い牙の周囲に展開される。石塵が宙を舞った。元素は練り絞り上げられていく。強烈に、強烈に。
 赤い微粒子が徐々に――――――やがて集積され、大気は張り詰め、濃厚な赤い靄を纏う。
 かつてこの魔法をくらった時、一瞬で意識を失ってしまったから、仔細を具に観察できていない。だが、これが"それ"であると、考えるまでもなく判る。数多の冒険家の命を奪った赤い牙の十八番、咆哮の炎衝撃――――――ハウリングブラスト!
(いまだ‥‥‥)
咄嗟にレモンは石柱の陰に隠れた。事前に充分に打ち合わせはしてあった。
 アイリもレモンも魔法のことはよくわかっている。レモンの電撃魔法がそうであるように、強力な魔法は、発動の前に必ず「溜め」が必要になる。赤い牙についても彼女たちなりに調べた。ハウリングブラストがどれだけ強力な魔法か知らないが、強力であればあるほど、その「溜め」は必須となってくるのだ。そして、それは、おそらく直線的な魔法であろうことを、一度の対峙で経験しているから、「溜め」が始まったら物陰に隠れて、魔法が収まるまで、待っていれば、やり過ごせる筈だ、と。反撃に関しては、本来、その後やればいいことだった。
 だが。
(アイリ‥‥何してるの‥‥‥‥早く!)
今にも魔法が発動されようとしているのに、アイリは隠れようとしない。それどころか弓を構えて、矢を番え出した。
(ここしかない‥‥‥)
「グルルルルルルルルルル〜」
唸り声は止まらない。集められていく火の元素。大気は色味を増して紅蓮に燃え上がり、うねり、熱量を周囲に発散。今にも爆発しそうな、はち切れんばかりになっている。
「アイリ!」
弓を引き分けながら、アイリは精神を別次元に置いていた。

 

 ‥‥‥‥‥遠くで‥‥‥‥呼ぶ声がする‥‥‥‥
 ‥‥‥でも‥‥‥‥‥‥やらなくては‥‥‥
 この魔法‥‥‥‥発動されたら只じゃ済まされないってこと、よく分かる‥‥‥
 「溜め」がすごい‥‥‥‥
 多くの冒険家を撃ち破ってきた赤い牙の、くぐってきた修羅場の数々が、垣間見えるようだった。
 でも‥‥‥‥ここにこそ‥‥‥‥必ず"それ"はある筈だ‥‥‥‥‥‥

 

 イヌの咽喉の震いがピタリと止まる。一瞬、熱気が退けられた。
 それは更なる集積。限界にまで集約された火の元素たちが行き場を求めて彷徨う反動。それらは気高き犬の咆哮に導かれて、大いなる爆炎となって全てを呑み込む。
 赤い牙は身を縮めた。
(いまだ!)
 イヌが吠える――――――!
 ハウリングブラストが発動する、正にその瞬間――――――――雷撃の一撃が駆け抜けた。
 アイリの放った矢が赤い牙の口腔をぶち抜いた。
 身を硬直させて。無残な赤い牙はバタリと横に倒れて、動かなくなった。
 火の元素たちは霧散していった。

 

 

 

「ふーっ」
アイリは大きく息を吐いた。(何とかなったな‥‥)
「アイリ!!」
レモンが飛びついてきた。
「もう、やばいよ。死んじゃうかと思ったよ‥‥」
半泣きだった。
「あははー」
間の抜けた笑い方をするアイリは、さっきとはうって変わって別人だった。
「もうバカ!」
心配させられてレモンは怒ったが、実はアイリには密かな確信があった。
 赤い牙に比べたら、修羅場の数は負けるかもしれないけど、アイリも幼い頃から喧嘩ばっかしてきたから、戦いの哲学は身に付いている。
 それはピンチはチャンス。チャンスはピンチ。二つは表裏一体なのだということ。
 例えば、形勢が不利な時だったり相手が最も得意としているところ、こっちにとってよくない状況に見えるけど、でも実はそうゆうところにこそ、弱点が潜んでいたり、或いはそれを頼みにしているから、そこを破られると自信を失ったり‥‥‥‥‥突き崩せば意外と脆い部分が見えてくるのだ。そうやって状況が一変してしまったことが、度々あった。
 肝心なのは、その一点を見極められるかどうか。そこをしっかりモノにできれば、ピンチやチャンスなんて状況は簡単にひっくり返るものなのだ。
 だから最大のピンチとゆうのは、最大のチャンス。諦めなければ、必ずそこに活路が見出せる‥‥‥‥‥‥‥かも(経験上、そうでないこともしばしばだった)。
「それにほら! 前もあの魔法、一回くらったじゃん?」
「うん」
「で、その時無事だったでしょ」
「うん(意識不明にされたけど)」
「だから。最悪ダメでも、れもさんが無事ならなんとかしてくれるかなーーと」
「ぇええええーっ」
アイリの言い分としては、れもさん一人で倒せないまでも、自分を担いで逃げてくれれば、と。
「む、むりよ‥‥‥」
逆ならともかく。アイリがレモンを担ぐならともかく、レモンには到底不可能に思えた。でも、まあそこはアイリも半分冗談みたいなものだった。
「でも‥‥‥‥もしもの時は。その時は、れもんちゃん、一人で逃げてね」
(何でそんなこと言うの?)
戸惑った。そんなこと、言ってほしくない。そんなこと、普通の会話と同じトーンで、言ってほしくなんかなかった。
 ふと。
「ん?」
何物かの気配を感じ、二人は周囲に気を配る。
 見ると、暗闇から現れたイヌたちが。ぞろぞろぞろぞろ現れて、赤い牙の死体の周りに集まってきた。
「れ、れもさん‥‥‥」
「う、うん」
またこんなパターンかと思いつつ、イヌの集団の後ろの方に奇妙な影を見た。
(あれは‥‥‥!)
それは赤い牙だった。
(一匹じゃないの??)
新たに現れた赤い牙が遠吠えを上げると、他のイヌたちもそれに呼応。雄叫びはやがて静まり、そして一斉に襲い掛かってきた。
「ぎゃああああああああああ!」
アイリは一目散に逃げ出した。
「ちょ、ちょっ! アイリ! 一人で逃げないで!!」 

 

 秘密結社レッドアイは表向きは「RED STONE」探索機関として王国各地に研究所を設け、裏では「禁呪」と呼ばれる、様々な忌まわしき呪法・魔法薬の開発を手掛けていた。ここ、古都西に位置する赤目研究所では「生体兵器」の開発が行われ、多くの生物がその被験者となった。取り分けイヌは、より精度の高い薬品を投与され、組織の忠実な番犬と化して研究所を護り続けてきた。中でもレッドアイ末期に開発された薬品はそれまでのものと群を抜いており、生体兵器の軍事運用が可能と判断された。これが「赤い牙」である。その後、レッドアイは滅亡し、管理する者がいなくなったイヌたちは、与えられた強力な戦闘力・生命力のおかげで天敵も疫病も寄せ付けず、異常繁殖してしまったという。それを危惧した者たちに間引かれるなどしたが、現在は新しい主「レッドアイ教」の庇護下にあって、変わらず研究所の護衛を務めている。但し、代々暗い地下で生まれ育った生態なので、彼等は皆、余り外へは出たがらない。

 

 

 

(ふーっ。やっぱり外の空気は、最高だぜ)
すがすがしい外の空気を胸いっぱい吸い込むアイリ。だけど、なんかさっきからやたら背中にばしばしパンチが当たるのは何故だろう。
(また逃げた! また、一人で逃げやがって!!)
 赤い牙へのリベンジ‥‥‥‥‥‥完。

 

 

 

 

 

 

 う〜〜ん。
 う〜〜んう〜〜〜ん。
「どうしたの? うんうん、唸って」
 いやさ。女だけの冒険ってのも、限界あるんじゃないかなって思って。
「男でも引っ掛けに行きますか!」
 もっと、ごっつい味方がほしいんだよな〜〜。前で敵の攻撃防いでくれるヤツ。そしたらあたしの弓も、れもさんの魔法ももっと活きる気がする。
「そうねぇ〜〜。でも、あんま変なヤツはイヤよ」
 だよね〜〜。ごつくて丈夫でも、むさ苦しいヤツと一緒はヤダね〜〜〜。
「頼りがいのある、イケメンな人がいいな」
 れもさん、無茶苦茶いいますな〜〜。
「仲間って、やっぱり酒場とかで見つけるの? わたし、飲めないけど‥‥」
 あたしも飲めない。
「だめじゃん!」
 いい人、見つかるかな〜〜〜。
「どうだろね」
 見つからなさそ。
「かもね!」
 ごつくて〜、丈夫で〜、むさ苦しくなくて〜、頼りがいのありそうなヤツかあ‥‥‥‥。
「‥‥‥‥」
「あ!」

 

 

 酒場「小羊たちの水場」。
「おう、お前らか。どうしたんだ」
そう言って、一気に飲み干し黒ビールのジョッキを空けたのは、鉄の全身鎧に身をつつみ背中に巨大な両手剣を背負った、187cmの体躯の持ち主、レオンハルト・ヴァリーマースである。

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