第12章 戦士たちの休日(前編)

 ―――――だったら俺と結婚しねえか?―――――――

  衝撃的なヴァリーの告白によって、それまでうまくいっていた三人の関係は壊れ‥‥‥‥‥‥‥ることもなく、差し当たってこれといった変化もなく、日々はいたずらに時を重ねていった。
「ハニー! いつ俺と、ケッコンしてくれるんだ!」
どうやら自らの想いを口にしてみて、ヴァリーはより一層アイリのことが大好きになってしまったようである。それまで年上で、冒険家としても先輩、三人のうちでリーダー格だった威厳は、どこぞへ吹き飛んでしまっていた。
「するかっ! っってか、抱きつくんじゃねえ!」
対してアイリの方は、これまでは普通に仲良く、冒険仲間として接していたのだが、「ハニー!」などという熱烈アタックのせいで、必要以上にキビしくヴァリーに当たるようになっていた。
 レモンはレモンで、
「ねーアイリー」
「ん?」
「式はいつ挙げるのかしら」
「!!」
「実家からドレス、取り寄せなくっちゃ〜♪」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
二人の仲を茶化して遊んでいる。
 ‥‥‥などのような、多少の変化はあるものの、三人の日常には穏やかな時間が流れていた。
 もうすっかり仲の良かった三人は、互いの住所を教え合っていた。アイリ・レモン宅の方が広いので、もっぱらこっちがホームグランドになる。この頃になると、ヴァリーは遠慮なくドアを蹴り開けて、よく二人を訪ねにきていた。
「おはようハニー!」
朝から妙にテンションが高いレオンハルト・ヴァリーマース。寒い冬の朝だというに、笑顔が無駄に爽やかだ。
「う〜〜〜〜ん」
対照的に、朝は弱い少女二人。気温の低さも相俟っている。レモンはまだ眠い目をこすりながら、起き上がった。
「ほらハニー! 朝ですよ〜〜〜!」
ヴァリーが部屋に踏み込んでくるや否や、顔まで布団を覆い被さるアイリ。微弱な抵抗を試みる。ヴァリーはその布団を軽々引っぺがして、愛しい人の寝起き顔をのぞきこむ。愛しいその人は、眉間に皺を寄せて、しかめっ面でこう言った。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥殺すど‥‥‥‥‥」
寝起きはサイアクな低血圧のアイリ。安眠を妨げられて死ぬほどキゲンが悪い。
「レオン、さむいよ〜〜〜」
その隣で布団を巻き上げられたレモンが震えている。本来レモンの部屋は別にあるのだが、冬は寒いのでアイリのベッドで二人寄り添って寝ているのだった。
「おお! すまんすまん」
取り上げた布団をレモンに返す。‥‥‥布団さえ戻ってくればこっちのもの‥‥‥‥。
「zzzZZZZ」
「おい、コラ! また寝るんじゃない」

 

 

 三人はしばらく休暇を取ることにした。一日二日の休みは適宜取っていたが、今回のように一週間以上もまとまった休みを取るのは初めてのことだった。それは、生きてくために稼がねばならなかったことや、三人での冒険が楽し過ぎてイベントでも企画するかのように次々と仕事でスケジュールを埋めていったことなど、理由は色々あったが、ここにきてそれなりの財も蓄えたし、少し落ち着いた時間を持つのも悪くないな、と考えるようになったのである。あと、冬になって外が寒い、というのも大きな理由の一つである。

 

 

「なあ、朝メシ、どーすんだ?」
朝からテンションMAX なヴァリーは、小腹が空いてしまっている。それで二人を起こしにきた。だがそんなことを言われても、アイリは眠くてそれどころでない。
「オレ、腹へっちまったよー」
一人で勝手に食えよ‥‥‥‥と思う。心は半分、夢の中。
「う〜〜ん‥‥‥じゃあ『PEATERPAN』行く?」
前屈みに上半身だけ起こして、レモンが答えた。うすいピンクのネグリジェ姿は、まるでどこぞの国のお姫様のようだった。あくびして、まだ眠そうにしているが、律儀に質問に応じてしまうのは、根が真面目な性分だからだろう。でも、それに対して返ってきたレオンの返事は‥‥‥。
「また『PEATERPAN』かあ? ワンパターンだなあ」
その一言がレモンのトサカにきた。
(カッチーーン)
レモンはいいとこのお嬢だが、ブリッジヘッドの邸でも、あんなにおいしいパンは出たことがない。たぶん、フランデル大陸極東部、どこへ行っても誰であっても、通用するくらいおいしいパンだとレモンは思ってる。私が言うんだから間違いない、という自負がある。それくらいのお店だからよく足を運んでいるというのに、それをワンパターン呼ばわりとは何ごとか! けど、よく考えたら、今までレオンは「PEATERPAN」に来たことが無い。「パンなんて、どこも同じようなもんだろ?」と張りに、ランチに心躍らせる二人の少女に冷ややかな視線を投げかけていた。
「そんなことゆうなら、一回食べてみてよ!」
思わず荒げてしまった声に、隣のアイリが目を見張った。構わずレモンは続ける。「もしおいしくないってんなら‥‥‥お金はあたしが払ってもいいわ!」
そんなつもりは全然なかったのに、迂闊な発言でレモン嬢を挑発してしまった形になって、レオンは少し狼狽した。
「‥‥‥‥‥へいへい‥‥‥‥じゃたまには、パンでも買ってくるとしますか」
パンなんて全然気分じゃなかった。が、取りあえずこの場を穏便に治めるためには、仕方ない。レオンは言われるがまま「PEATERPAN」に向かうことにした。

 

 

 

 「うめええええええええええ!」
テーブルには色とりどりのパンが十種類以上並び、華やかな見た目と芳ばしい香り、鮮やかに食卓を彩っている。コロッケパン、メンチカツパン、カツサンド‥‥‥‥肉好きのヴァリーは次から次へとパンを手に取り、貪りつくように口いっぱいにパンを詰め込んでいる。
「すげえええぜ‥‥‥こんなうまいパン‥‥‥‥初めてだぜ‥‥‥」
食いながら、ミルクで流し込みながら、ヴァリーは忙しそうに感想を漏らしている。アイリとレモンはその様子を眺め、食べるのか飲むのかしゃべるのか、どれか一つにしたらいいのに、と思っている。
「うめええ‥‥‥なんっっつーーうまさだ‥‥‥」
さすがにその巨漢だけあって、ヴァリーはよく食べる。その食べっぷりを見ると、まだまだデカくなるんじゃないかという懸念すら浮かんでくる。ただでさえ食欲のない朝、アイリとレモンは見ているだけでおなかいっぱいになりそうだった。
 それでも卓上にはまだたくさんのパンが手付かずで残っている。「なんでこんなに買ってきたのか」と言えば「いい匂いにつられて、気になるのを全部買ってしまった」からだ。
「ふー、食った食った」
嵐のようにパンを食い荒らし、腹を擦って、感想を述べる。
「いやあ、こんなうまいパンが、あるなんてなーー。お嬢の言うとおりだったよ」
レモンは小さな口で黙ってメロンパンをはもはもしている。アイリはミルクを一口含んで、ようやく寝起きの気だるさが取れたのか、目の前に置きっぱなしだったタマゴサンドをなんとか咀嚼し始めた。そんな二人にお構い無しに、ヴァリーは一人で話しかけている。予想を覆すほどおいしいパンに出会えた感動、これを言葉で伝えたかったのか、ヴァリーは言葉を継ぎ足し継ぎ足し、「PEATERPAN」を誉めちぎった。そしてそこから、長い講釈が始まった。

 

「パンなんて、どこも同じだと思ってたけど‥‥‥違うんだな。使ってる麦が違うんだろうか‥‥‥。ネイダック産の麦は一味違うとか言うよな‥‥‥‥」

レモンとアイリは無言でパンを食べている。

「ここのパン食っちゃうと‥‥‥もう他じゃあ、食えなくなるよなー‥‥‥」

 二人は無言でパンを食べている‥‥‥。

「きっと、こね方とか、発酵の温度とか湿度の管理に、コツがあるんだろうな‥‥‥‥オレが知ってるピザ屋の主人の話じゃ‥‥‥‥」

レモン「‥‥‥‥」

「食感といいほのかな甘さといい、絶妙だよな! しっとりとふんわりの完璧なまでの融合とでも言おうか‥‥‥。これだったらオレ、食パンだけでもイケるなきっと! 普通のパンじゃ、味ねえから何かつけねえと食えねーけど‥‥‥」 

アイリ「‥‥‥‥」

「でもさ、パン屋だからパンがうまいのはわかるけど、中の具もうまくねえ?! ソーセージはジューシーだし‥‥‥‥メンチカツなんて〜、挽き肉がきめ細かい! ありゃあ粗末なモン使ってねえぞ!」

レモン&アイリ「‥‥‥‥‥」

「ひき肉は脂肪分とか、使ってる部位でも味が変わるとか言うな。あと配合比率! 豚と牛の割合が、7対3ってのが‥‥‥‥‥‥」

 

(れもさん‥‥‥)
アイリがアイコンタクトを送ってくる。
(こいつ‥‥‥‥うざくね?)
(うざぁい)
ウチらの大好きな「PEATERPAN」が認めてくれたのは良かったが、あんまり一人で感動しすぎていて、それがやかましい。しかしヴァリーの講釈は止まることなく、それからしばらく続いたのだった。話す方は楽しげだったが、聞く二人にとっては、絶望的なまでに長い時間なのだった。

 

 

 滔々と続けられる話の中で。
「それにさー。サービスで配ってるコーヒー! あれ中々うまくね?」
(お?)
コーヒーの話が挙がって、思わずアイリの食指が動かされた。
 「PEATERPAN」のコーヒーのおいしさ。それは常々、アイリも思っていたことだった。パン屋ということで、パンの方に注目が行くのは当然だ。今のヴァリーがいい例だが、みんな初めてあの店のパンを食べると、そのおいしさを語りたくてしょーがなくなってくる。それは語っても語り尽くせないおいしさで、自ずから話題はパン中心になる。でも、その陰に隠れて、あの店のコーヒーは何気においしいのだ。勿論、一杯180Gもするような「本格焙煎」などと謳ったお店のものには敵わないかもしれない。でも、タダで飲めるサービス品ということから考えると、その味は侮り難いものがある。そう、思ってはいたものの、アイリは特に誰か言い出すこともなく、ただ胸の内にしまっていたところ、ヴァリーがその話を持ち出してきたのだった。
「そうなんだよねー。あたしもずっと思ってた」
自分の話にようやく意見をもらえて、ヴァリーはちょっと安心した。さっきからずっと一人で話してて、まるで相手にされてないのかと、ちょっぴり不安になっていた。‥‥‥新手のいぢめかと思っていた。
「あれって、他所と何が違うんだろーねー。豆かな‥‥‥」
「かもなー」
ヴァリーはミルクを啜りながら頷いた。レモンはクッキーをぽりぽり食べていた。パンはまだテーブルの上にたくさん余っていたが、どうしてもこっちが食べたかったらしい。
「まてよ?」
と、ヴァリーはマグカップをテーブルに置いた。
「でもさ、豆なんて古都で採れるわけじゃないし、どっかから仕入れてんだろ? だったら、古都に出回ってる豆のどれか、ってだけで、特別な豆じゃないんじゃないか?」
「あーそうかもー」
「やっぱ挽き方とか、色々あんだろうなー‥‥‥」
家庭用のミルと業務用のミルとでは、挽くのに差があったりするのかもしれない。粉の均一度や微粉の除去など‥‥‥。しかしまあ、アイリとしてはそんな細かいことはどうでもいいことだった。「『PEATERPAN』のコーヒーはおいしい上にタダ!」それをわかってくれる人がいるだけで、十分だった。
「なんというか、こう‥‥‥‥『コーヒー』じゃなくて‥‥‥‥」
「‥‥?」
「『珈琲』! ‥‥‥‥敢えてこう呼ばせてもらおう!」
ヴァリーのしょーもないこだわりに、思わずアイリは吹き出した。でも「コーヒー」より「珈琲」、こっちの方が何か「こだわりの味」みたいな感じがして、おいしそうな気もするのだった。
 そんな二人のやり取りをレモンは静かに眺めてる。実は「珈琲」の件に関しては、二人に賛同できていなかった。
 というのも無理はない。先述のとおり、レモンの実家は大富豪である。家で普通に出されるコーヒーや紅茶、それ自体が一級品だったのだ。幼い頃からそれが当たり前だったから、大抵の食品に対して、一般の人たちとは認識に誤差があって当然である。本当においしいもの‥‥‥‥いや、食べ物に限らず、一流と言われるものはみんな「深み」が違う、とレモンはその短い人生の経験で学んでいた。食べ物以外にも、楽器や歌手の歌声や舞台役者の演技‥‥‥‥。いいモノはなんでも、中に何重もの構造を内包していて、奥行きを感じさせてくれる。「奥床しい」とは、よく言ったものである。言葉で説明するのは、難しいことだが。しかし、逆は、もっと解り易い。ごくありきたりなモノは、そうゆう多重構造を持たないがゆえ、浅く、うすっぺらいのだ。
 残念ながら、コーヒーの方はそれには該当しなかった。ひょっとしたら、最低ランクのものと比べれば、そう感じられるのかもしれないが、それは育ちの良すぎたレモンが味わい知るところではない。そんなことをとやかく言ってもしょうがないから、こうゆう時、レモンはただ黙っているしかない。だから「PEATERPAN」のパンは、あくまでも例外なのである。そしてその例外は、ただ単純な「おいしさ」だけでなく、生まれながら大富豪の令嬢と一般人との間に「共感」を与えてくれる、貴重な存在なのだった。
 ところで。全然別の疑問が思い浮かんだから、レモンはそれとなく尋ねてみた。
「ねーねー」
「うん?」
「コーヒーって、コーヒー豆を挽いて入れるのよね?」
「?」
「‥‥‥そーだが?」
「タダでコーヒー配ってるってことは、それだけいっぱいコーヒー豆ある、ってことだよね?」
「‥‥‥そーかも‥‥しれないなー」
「どこでそんなに採れるんだろ?」
「ほう?」
「コーヒーの産地は亜熱帯気候で、標高が高いところが栽培に適している、って習ったわ」
「‥‥‥‥」
「でも、フランデル大陸極東部は温帯――――――一部乾燥帯があるけど、ほとんど温帯、温暖湿潤気候。栽培に適した地域じゃない‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「タダで配るなんてよっぽどの物流量があるってことだと思うんだけど、一体、どこでそんなにコーヒー採れるのかな〜?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
アパートの一室に沈黙の空気が立ち込める。
「はっはっはっはっ」
突然、大声でアイリが笑い出した。あまりに大きな声だったので、びっくりしてレモンは目を丸くした。その隙をついて、ヴァリーが言う。
「ばかだなあ、お嬢は」
「ホント、ばかよね」
アイリ、すかさず合いの手を入れる。
「えっ?」
「そんなこともしらないのかー」
「ホントばかね、ばか」
「ぇええーー?!」
自分としては至極、常識的な質問をしたつもりだったのに、こんなあしらわれ方するなんて‥‥‥‥‥ってか、ちょっと、ばかばか言いすぎ。
「輸入に決まってるだろ?」
ヴァリーが言った。そうだ。極東部で作れないのだとしたら、どっかから輸入しているとしか考えられない。学校の成績はあんまり良い方ではなかったレオンハルト・ヴァリーマース。コーヒーの産地なぞ知ったこっちゃーないが、いまレモンが話した内容を受けての、機転を利かした渾身の切り返しだった。
 だが、それに対して。
「ええー? でも、うち実家、貿易会社よ。ジェノス海の海路はクリペの墓(シュトラセラト南にある暗礁。300年ほど前に、ここに乗り上げた座礁船が溜まってしまい、巨大な暗礁地帯となった)があるから船の数は制限されているの。コーヒーなんてうちじゃそんなに扱ってないけど、他はけっこうやってるのかな〜〜? ‥‥‥でも南蛮物なら、そんな無料で配るほどのもんで、粗利とかどーなのかしら‥‥‥?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
(‥‥‥‥‥やばい‥‥‥。機転を利かせたつもりが、かえってヤブヘビに‥‥‥‥。貿易会社の娘になんの話してんだオレ‥‥‥‥。全然機転きいてねえええ‥‥‥‥)
内心焦るヴァリー。
「ちょ‥‥‥‥なんで黙ってるの?」
追い詰められて窮地に陥ったヴァリーマースに、無垢なるレモンの質問が、さらなる追い打ちをかけてくる。
「南蛮のどの辺りで生産されてるのかな? たぶん地域とか国名わかれば、パパに聞けばどこが扱ってるか調べてもらえ‥‥‥」
「ブ*ジルよ」
「えっ?」
アイリは目をつむってマグカップをすすっている。
「‥‥‥‥何、アイリ? ‥‥‥‥‥‥ちょっ‥‥‥よく聞こえなかった」
アイリは専用のロッキンチェアーで静かに揺られている。
「ねえーアイリーー! なんて言ったのーー? ドコー?」
「なんだー? 一回で聞き取れなかったのかー?」
体勢を立て直したヴァリー、反撃に応じる。
「だってアイリ、ちゃんと言わないんだもん!」
「ほらほら! そんな風にお姉さんを困らすんじゃないよ」
ヴァリーの猛攻。ここぞとばかりに激しく捲くし立てる。アイリは目をつむったまま、うんうんうなづいている。
「‥‥‥‥まったく、しょーがないコだ‥‥」
「えええーーっ」
(なにこのコンビプレイ‥‥‥‥)
うやむやにされてしまうのだった。
 そんな他愛の無い、三人の日常‥‥‥。

 

 

 

 あくる日。またヴァリーは二人を起こしにくる。
「おはよう! ハニー」
がばっと、布団をひっぺがす。すると‥‥‥‥。「いてっ!」何者かに爪でひっかかれた。何者かはいきおいよく飛び上がり、ベッドの上で身構えた。
「ハニーじゃねえ! ころすぞっ!」
ハニーだった。今朝はちょっと早めに起きていたので、迎撃の準備ができていたアイリ。猫拳の構えをとる。「フー、フー」
「やんのか、オラァ!」
ヴァリーも攻撃を受けて血気盛ん。乱暴な言葉遣いで応戦する。半分冗談だが、半分、ひっかかれた顔が本気で痛い。
「もう〜〜〜、なんなのよ〜〜〜〜」
一人、そのテンションについていけないレモン。二人が身構えたまま動かないのは、どうやら互いに見えない無数の拳を繰り出しあってけん制しているかららしかった(動かないのでなく、動けない‥‥‥らしい)。「フゴォーー」「オラァー」‥‥‥ただ、アイリの構えは、いつの間にか鶴の舞いに変わっている。
(まったく、朝からよくやるわ‥‥‥)
皮肉のひとつでも言ってやりたくなる。
「ね〜〜〜。なんで、そんなにアイリが好きなの?」
横からの問いかけに、構えを解かずにヴァリーは答えた。
「それが俺の物語だからだ!」
「‥‥‥‥」
「はあ?」といった感じで、レモンは卵型の顔の上でうすい眉をしかめた。ヴァリーは続ける。
「人は誰も、人生という名の、物語の主人公なんだ」
「‥‥‥はあ」
生返事。
「物語に、美しい姫君は必要なんだ!」
「はあはあ?」
「主人公と、美しい姫君は、結ばれる必要がある」
‥‥‥たしかに舞台劇なんかじゃ、悪者や悪魔を倒した勇者が最後はその国のお姫様と結ばれる、といった内容のものが多かった。
「つまり‥‥‥‥俺とアイリは‥‥‥結ばれる、必要があるってことなんだ!!」
「つまり」というその論法に、飛躍は一切なかった!
「抱きつくんじゃねえええええええええ!」
ぐはっっっ!!

 

 

 

 街へくり出す三人。といって、これといった用事があるわけでもなく、ぶらぶらと当て所なく散策するだけ。しかし、男一人と女二人との間には、若干の趣味嗜好の隔たりがあるようだ。ヴァリーは武具やトレーニング用品など、実用的なものを見て回りたい。
「おおっ、なんだこの箸! グリッパー付きだと?! ‥‥‥‥‥そうか! これなら食事の時でも、いつでも握力が鍛えられるな‥‥‥」
「『そうか!』じゃねえよこの筋肉バカが‥‥‥‥‥脳みその中まで筋肉になっちまえ」
と、決して声に出しては言わないアイリ。「言ってるけどね」「聞こえてるしな」
 一方、アイリとレモンは服やアクセサリーなどを楽しそうに見て回っている。特に買うつもりはないのだが、ただそうやって手に取ったり試着したりするのが楽しいらしい。「あっ! これかわいい〜〜」「これもいんじゃね?」「これもこれも!」
ヴァリー「‥‥‥‥‥‥‥‥」
二人の女っ気にすっかり当たってしまったヴァリー。買う気もないのによくダラダラと見て回れるもんだ、と思う。腹も減ってきたし、正直もう、飽きた。
 そんなヴァリーの気も知らないで、買い物に夢中なアイリが話しかけてくる。
「ねね! コレとコレ、どっちがいいかな〜〜?」
ヴァリーは「どっちでもいいだろ?」という言葉が、咽まで出かかってそこで止まる。いくら退屈だからって、そんな応対はしてはいけない。せっかくアイリが楽しそうにしているのだ。‥‥‥まあ、買う気もないのに「どっちがいい?」もへったくれもないもんだが‥‥‥。ってか、どっちもそんなに大して、違くなくね??
「じゃあ‥‥こっち、かな?」
「えーー、でも、こっちもカワイくないかなあ?」
‥‥‥‥答えは初めから決まっているらしかった。
(だったら聞くなよ‥‥‥)

 

 

 

 昼食はバーガーショップ「Snippers」。値段も調理の早さもお手軽なこのお店は、軽食を摂るには持ってこい。バーガー単品よりも、ポテトとドリンクつきのセットメニューで頼むと、個々の価格が安くなるというお得感が人気の秘訣。お昼時ということもあって、白で統一された木製の一脚テーブルと椅子―――――オープンテラスは若者でごった返していた。
「お? レオンじゃねえか! おめー、なにやってんだ」
と、見知らぬ同業者らしき男がレオンに声を掛けてきた。
「おう! ‥‥お前こそ、なにやってんだよ」
聞けば、レオンの飲み仲間らしい。酒場で会って、意気投合。一緒に仕事をこなしたこともあって、パーティーの誘いを受けたが、レオンには先約があったので断ることになってしまったという。その先約も、今は一人残らず過去の人となってしまったが。
「店ん方にも顔出さねえし、どっかでくたばっちまったかと思ってたぜ」
そう言って笑顔を交わす。そんな軽口を叩き合う仲らしい。
 レオンはアイリたちに断って、その男のテーブルに挨拶しに行ってしまった。他に4、5人の男女がいて和気あいあい、楽しそうな談笑がくり広げられているようだった。
 その様子をアイリはぼんやり眺めてる。よく考えたら、いつも一緒にいたけど、ウチら以外の人と、ああやって楽しそうに話してるヴァリさん、見たことなかった。‥‥‥それが何か、どこか、不思議と新鮮なことのように思えてくるのだった‥‥‥。
「ねえー、ちょっとアイリ。聞いてる?」
隣のレモンに話しかけられて、我に返る。
「あっ‥‥‥ちょ、ごめ‥‥‥ぼっとしてた」
「もうーー」半ば呆れるようにレモンは言った。
「ねー本気でどーするの?」
「? なにが?」
「ん‥‥‥‥‥‥プロポーズ‥‥‥」
「!!」
「どーするの?」と言われても、アイリ自身どうしていいのか分からなかった。そこで、
「ね、飲み物とってくるけど‥‥‥何がいい? コーラ?」
「オレンジジュース」
席を立って、その場を濁した。

 

 

(一体、ヴァリさん、何考えてるんだろうか‥‥‥?)
 はじめは冗談かと思っていた‥‥‥。けど、どうにも、そうではないような気はしている‥‥‥。
(なんでこうなったんだろう‥‥‥‥)
 今のままが一番なのに、とアイリは思う。ただこのままの日々が、ずっと続けばいい‥‥‥‥。それじゃだめなんだろうか‥‥‥‥‥。
(あたしの、どこが好きなのかな‥‥‥‥‥‥‥)
 考えても、答えの出ることではなかった。
 ただ迷いだけが、積み重ねられていった。

 

 

 二人分のドリンクを持って席に戻ろうとすると、今度はレモンが、見知らぬ男二人組みに話しかけられているのが、遠くから見えた。
 けど、別にあわてることはない。これはいつものことだから。
 れもさんと一緒にいると、そうゆうことは本当によくあった。
 知らない男たちが、ちょっかいを出しに声をかけてくるのだ。
 いわゆる「ナンパ」とゆーやつだ。
 で、買い物してても、食事のときでも‥‥‥‥話しかけられるのはいつもれもさんの方。
 無理もない。
 れもさんったら、本当に、絵本の中から飛び出してきたような、絵に描いたように可愛いらしい、お人形さんのようなルックスだから。
 小さい卵型の顔に、エメラルドグリーンの瞳がすっごく大きくて、そしてあの、ストロベリーブロンドの髪‥‥‥。
 一緒に寝ていて、朝起きたとき。となりでれもさんが、あのキレイなストロベリーブロンドの髪に贅沢なまでの寝ぐせをつけて、無防備な様でいたりすると、女の自分でもどきっと目を奪われたりする。
 本当にかわいくて、女の子らしくって、男だったら誰でも‥‥‥‥‥れもさんのような子が好きに決まっている。
(それに比べてあたしは‥‥‥‥‥)
 アイリはくせっ気のある自分の髪を摘まんでまっすぐにしてみた。
 髪は指で摘まんでる間はまっすぐだったが、指を離すとまた元に戻ってしまった。
(あたしもああだったら、よかったのに‥‥‥‥)

 

 

 もしそうだったら、もっと自信をもって、あいつの言葉‥‥‥‥受けれたのかもしれない‥‥‥‥‥。
 そもそも、そんなレモンを差し置いて、何故、自分なのか‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥アイリにはわからなかった‥‥‥‥。

 

 

 そんなことで頭がいっぱいだったから、ぼうっとしてて、何も考えずに席に着いてしまう。
「あ!」
そこでレモンは声をあげて、
「ツレが来たから。また今度ね〜」
そう言って男二人との会話を打ち切った。向こうも二人組みだから、2対2の状況はかえって都合が良くなった筈なのだが、さすが場慣れしているレモンだけあって、その言葉はこれ以上相手を踏み込ませないきっぱり感があった。
 アイリはレモンの前に飲み物を置く。二人組みの男は往ってしまった。
「ありがと」
その言葉が届いたのかどうか、アイリは黙ってストローをすすった。
「首都大生なんだって」
「へ〜〜」
気のない様子が、レモンにも伝わったらしい。
「ねーアイリ」
「ん?」
「今日、ちょっと、様子ヘンじゃない?」
「えっ」
図星をつかれて、ちょっと驚く。
「そうかな」
「そうよー」
 れもさんは時々、みょ〜〜にスルどい時あるから、油断はできなかった。
「ねー前から思ってたんだけどさー」
「‥‥うん」
「なんでレオンのこと、苗字で呼ぶの?」
「へ?」
「ほら‥‥‥‥ヴァリさん、って」
前から思ってたという割には、しょーもない質問だった。
「なんでって言われても‥‥‥」
別に理由は特にない。
「ほら、あいつ『ヴァリ』って感じじゃん‥‥‥。『レオン』じゃちょい、さわやか過ぎる‥‥」
くだらないことだが、話をしていると、どこかちょっと落ち着きが戻ってきて安心させられる。
「あっははー、なにそれーー」
レモンが声を高くして笑った。つられてアイリも少し笑う。よく考えたら、幼い頃からの習慣でそう呼んでいるだけだった。年長者を気安くファーストネームで呼べないから「ヴァリーマース」、それが縮まって「ヴァリさん」になった、それだけだった。
「それにレオンじゃかぶっちゃうでしょ?」
「かぶる?」
「れもさんと」
「う〜〜〜〜ん‥‥‥‥レオン、レモン、レオン、レモン、レモン、レオン‥‥‥‥」
「ほらね?」といった顔でレモンを見る。
「たしかに、かぶってるかもー」
「誰がかぶってるって?」
テーブルに巨大な影がかかった。向こうでの会話を終えたヴァリーが戻ってきていた。
「俺はかぶってないぞ」
アイリ&レモン「?」
少女二人には、疎い話題だった。

 

 

 

「あたし、お料理できるように、なりたいの!」
レモンの突拍子もない提案で、夕飯のゴハン係は全部レモンが引き受けることになった。代わりにアイリは掃除や洗濯、その他の仕事の負担を増やして、バランスを取ることになった。
「お醤油切らしちゃってたから、買ってきてほしいの」
「へいへい」
買出しもアイリが受け持つ。
「あと、コレとコレと、アレも買い忘れたから、ついでに買ってきといて!」
(おいおい、ちょっと忘れすぎじゃねえか?? ‥‥このすっとこどっこいれもんめっ)
意外と人使いが荒かったりする。
 言われたものを買って、その帰り道―――――――。街はすっかり夕暮れ色に染め上げられていた。川沿いの道を往く人はまばらで、風は冷たく、アイリは小豆色のダッフルコートをしっかり着込んで歩いていった。吐く息は白く、蒸気となって風にさらわれていった。
 古都ブルンネンシュティグは極東部でも一番、陽気でにぎやかな街。この街には各地から色々な人や物が集まり、一年中活気で溢れている。そうゆう様子は、春や夏などの暖かい季節を彩るのに相応しいと思う。でも、こうゆう冬の寒々しい景色や情緒も、アイリは嫌いではなかった。こっちの方が「古都」という感じもしてくるのである。そんなしみじみと趣き深い心持ちで冬の石畳の上を歩いていると、冷たい風が、誰かのさびしげなハーモニカの音を運んできた。その調べに心委ねていると、まるでこの世界の中に自分という存在が溶けこんでいって、世界と自分とが一つになって、一枚の絵画になってしまえるような‥‥‥‥‥‥‥そんな想いにさせてくれる‥‥‥‥。
 そんな心の静謐を掻き乱したのは、くだんの件が脳裏をよぎったから。
(ケッコン‥‥‥‥‥‥かあ‥‥‥)
 なんで自分なんだろうと思う‥‥‥‥‥‥‥れもさんじゃなくて。
(どうしたらいいのだろう‥‥‥‥)
 ケッコンなんて、まるでイメージが湧かなかった。
 どうしていいのか、さっぱりわからない。
(‥‥‥‥‥‥‥別にアイツのこと‥‥‥‥キライじゃない‥‥‥)
(でも‥‥‥‥‥‥)
 もし、そうなったら、どうなるんだろ?
 あたしの冒険は、これでおしまい??
 まあ‥‥‥そんな選択肢もあるかもだけど‥‥‥‥‥
 う〜〜〜ん‥‥‥
 でも、やっぱり続けたいね〜〜。
 そもそも、したられもさん、どうなるんだろ?
 仕事だって二人じゃ大変かもだし‥‥‥‥‥
 家だってどうすんだ?!
 ‥‥‥やっぱだめだめ!
 今のままが一番に決まってる!
 ‥‥‥‥‥ケッコンって、役所になんか提出すんだっけ?
 なんかめんどいな〜〜〜。
 あたしそうゆう手続き、ちょ〜〜〜〜ニガテだし。
 てか、指輪とかもらってないんですけど‥‥‥‥いいの??
 なんだか、わかんねえことだらけだな〜〜〜〜〜。

 

 いろんなことが頭の中でぐるぐる回っていた。
 そして気づく。
(あたし‥‥‥‥‥‥‥‥‥こわいんだ‥‥‥‥‥‥)

 

 自分に自信が持てなかった。
 未来にも持てていない。
 ‥‥‥‥またいつか‥‥‥‥‥うまくいかなくなる日が、くるんじゃないか‥‥‥‥‥
 そんな不安が、心の底に纏わりついて離れない。
 だから、大きな決断ができないでいる。
 でも、ヴァリーは‥‥‥‥‥‥‥本気だった。
 本気の想いで‥‥‥‥‥ぶつかってくる‥‥‥‥。
 それにこたえられるだけの覚悟が、アイリにはない。
 資格がない。
 ‥‥‥‥‥大切なことだから‥‥‥‥‥‥ちゃんと、考えないと‥‥‥‥‥
 そう、わかってる。
 気持ちを鎮めてみる。
 わかってるんだけど‥‥‥。
 ‥‥‥‥このまま何事もなければ‥‥‥‥‥今のままでいられる‥‥‥‥
 今という、最高に幸せな時間を、続けていられる。
 それは自分だけじゃなくて。
 三人にとって。
 くだらない話したり‥‥‥‥ばか騒ぎしたり‥‥‥‥。
 こんな楽しい日々を、壊してしまうかもしれない決断を、自分はしなければならない‥‥‥‥
 それが、こわくて、たまらなくて‥‥‥
 目を背けたくなる‥‥‥‥‥‥。

 

 

 長いこと、冒険家やってきたから知っているはずだった。
 命がけの真剣勝負でも、本当に大切な勝負の分れ目は、一瞬だったりする。
 その一瞬を掴み取るのに、どれだけ強い心が必要なのか‥‥‥。
 その一瞬は死ぬほどこわいけど‥‥‥‥‥。
 時々見える‥‥‥‥‥‥‥‥相手もこわいんだって‥‥‥‥。
 それを乗り越え、打ち勝った者だけが、真に勝者になれる。
 逆に。それをものにしようとしなければ‥‥‥。
 それは‥‥‥‥戦っているフリとおんなじ。
 一生懸命やってるフリだけ。
 逃げてるのと変わんない。
 本当に大事な一瞬だけ。
 そこで全て決まるから。
 それを疎かにする者に、戦士を名乗る資格なんてない‥‥‥。
 ‥‥‥‥‥まさか思いもしなかった‥‥‥‥
 逃げたくなるほどこわい真剣勝負が‥‥‥‥‥
 戦いの場じゃなくてこんな風に、自分に訪れてくるなんて‥‥‥‥‥‥‥。

 

 でも、それは半年くらい前にもあったことだった。
 あの時アイリは、自分の進路を決め兼ねて。
 挙句に、家を飛び出してきてしまった。
 そのおかげで、こんなに楽しい日々を手に入れることはできたけど。
 でもそれは、言ってしまえば、今ある日常――――――冒険家として過ごした時間、積み重ねた経験の全て―――――――が、ただの逃避でしかなかったことになる。
(あたし‥‥‥‥‥‥)
 自分でも気づいていなかった。
 一生懸命やってきたつもりだった。
 ‥‥‥‥大事なことはいつでもほっておいて、決断せずにやり過ごそうとする‥‥‥‥‥
 結局、本当に本当に、大切なことからは‥‥‥‥‥‥逃げていただけだった‥‥‥‥。

 

 

 カラスが一羽、飛んできて、鳴いた。

 

 夕暮れは深い影を投げかけてくる。

 

 (大体なんでアイツ、あたしのこと好きなんだよ‥‥‥)

 

 

 

  ――――――それが俺の物語だからだ――――――――

 

 

 

(ったく‥‥‥‥人の気も‥‥‥‥‥‥‥‥‥知らないで‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥)

 

 

 

 

 

 

 川沿いの道は開けていて、あたりがよく見渡せた。川を渡る風にのって、さっきのハーモニカの音が近づいてきた。
(あれ‥‥‥?)
てっきり、見知らぬ誰かが吹いてるのかと思った。が、近づいて見ると、見覚えのある‥‥‥‥見間違えようのないシルエットが、川辺のベンチに腰掛けて、無心にハーモニカを吹き荒んでいた。
 ヴァリーだった。
 道形にすぐ近くまできて、アイリはなんて声をかけようか、迷った。が‥‥‥‥‥‥‥。川に向かってハーモニカを吹くヴァリーは、通りに背を向けて座っていて、アイリに気づかない。
(‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥)
 アイリはそのまま、声をかけずに、アパートへの道を歩いていった。

 

 

 

「ね〜、もうそろそろ出来るから、レオン呼んできてよ」
料理長レモンの頼みごと。
「ええ〜〜」
家に帰ってくつろいでいたアイリは、露骨にめんどくさそうな顔をした。
「食事は多いほうが楽しいでしょ。それにもう、ゴチソウするって約束しちゃってるし〜〜」
読んでいた漫画本の続きが気になるとこだったし、そもそもどこほっつき歩いてるかわからない奴を呼んでこいってのが、かなりめんどかった。
(あ‥‥‥)
 そうか。
 川にいたんだっけか。
 ‥‥‥‥‥でも、どうせなら、先に言ってくれれば‥‥‥‥‥‥さっきついでに拾ってきたのに。

 

 

 再び川辺の道にやって来た。あっという間に日が落ちて、辺りは夜の帳に覆われていた。ヴァリーはもういなかった。
(もう帰ったのかな‥‥?)
 そこから程ないところにある、ヴァリーのアパートの前に来たが、灯りが点いてないのが外から見えた。
 ノックしてもやはり出てこない。
(う〜〜〜ん、家にも帰ってないとなると‥‥‥)
 一番可能性が高いのは‥‥‥‥‥‥。
 「あそこ」しかない。

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